一年に一回くらいは高熱を出す。普段は気合で抑えるタイプ(その代わり週末寝込む)なので会社は休まないのだがどうしようもない時がある。
あれは2年前の冬、体に変調の兆しがあったが、処理の都合上どうしても休むことが出来ず、無理して出勤、必要とされる部分をこなしてタクシーで帰ろうとしていた。真っ直ぐ歩くのもしんどいぐらいだったので、だいぶ参っていたのだが。
乗り込んだタクシーの運転手は、饒舌とはいえないまでもポツリポツリと話す人だった。こちらは具合悪い事を伝えたのだが、彼は何を思ったか彼の知人の霊能者の話を始めた。その霊能者は、かなりのパワーを持っているらしく・・・(熱で朦朧として聞き取れず)。
「おや、だいぶ具合悪そうですね。あなたのパワーが弱ってるんですよ。わたし今タクシーの運転手やってますけど、私も霊能者なんです。あとで少し治療してあげましょうか?」
(治療?治療って何するんだ?家に上げるのか?ちょっと怖いな。大体いきなり何を言ってるんだろうこの人。)
そう思っているうちにタクシーは家に着いた。マンションの前でお金を払って降りようとすると、運転手もまた車を降りた。そして、
「ちょっとそこに手をついて下さい。」
と、トランクの上を示す。朦朧としていた私は言われるがままにトランクに手をつく。(今冷静に考えると周りから見たら怪しい光景だ・・・)
「腰が弱ってるんですよ、腰から来てる。」
と言いながら腰に手を当てる。
「私の手のひら、熱くないですか?」
確かに、熱い気がする。そういえば楽になってきた。(暗示に弱いタイプなのである)
「はい、これで気が入りました。あとは何か栄養のあるモノを食べて今日寝たら直ります」
と言われ解放された。正直、何か勧誘されるかなと思っていたがそういうことも無く、一旦家に帰って鰻を買って食べ、一眠りしたら嘘のように治っていた。
というのは嘘だが、だいぶ楽になった。もともと影響され易い所為もあるのだが、とにかく楽になった。そんな不思議な体験だった。
(第三回〜風流オヤジ〜 に続く)