x31hook's blog

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20分間のランデヴー 第三回 〜風流オヤジ〜

さて、頃はちょうど桜も満開、そんな季節の話である。ひょんなことから、普段は乗らない個人タクシーの大型に乗車することになった。



余談だが、個人タクシーはやはり安心感がある。ある程度の経験を積まないと個人タクシーは開業できないからである。第一回のようなことはまず起き
ない。但し、個人タクシーになるともう好き放題である。趣味満開の車も見受けられる。第二回のような目にあう確率も格段に高くなる。更に余談だが、京都駅
にはマジェスタやベンツ(500SL!)の個人タクシーが停まっていることがある。一度乗ってみたいが、やっぱりちょっと怖い。





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閑話休題。


個人タクシーにはよく乗るが、大型は殆ど乗らない。会社によって様々ではあるが、小型、中型のほうが初乗り運賃が安いことが多いからだ。しかしその時はなぜか久し振りに大型に乗車し、平生とは違うゆったり感にご満悦だった。




運転手さんが語りだす。初老だが老いは感じさせないタイプの、ジェントルマン然とした雰囲気、そして森山周一郎ばりの渋い声。


「実は今日一日奈良で観光タクシーやってたんですよ。私英語が喋れるもんで外国の方がくるとよく指名されるんですよね」


英語好きだが喋れない私からすると、それだけでもう尊敬である。(今日は当たりだ)と、心中密かに快哉を叫んだ。




当時我々夫婦は、どこに桜を見に行こうか思案中だった。その話をすると、色々と桜の名所を教えてくれた。中でも印象的だったのが、琵琶湖に浮かぶ竹生島の桜吹雪の話だ。


「あそこはねぇ、急な階段があるんですけど、桜吹雪がとても綺麗なんですよ。普通の桜吹雪は勿論、階段に散った花びらが風でもう一度巻き上げられて下から上に逆に吹雪くことがあるんですがそれはもう綺麗ですよ」


実は竹生島にはかつて行ったことがある。神社の建築には感動したが、土産売り場が密集し子供が客引きをしているという光景にゲンナリした記憶しか
なかった。それが、である。話の渋いトーンと相まって、脳裏に素敵な光景が展開されたのである。流石ヴェテラン、言うことが違う。




話はココで終わりではない。だんだんと家が近づいてきた頃、


「結婚してるの?」


と聞かれた。「はい」と答えると、


「もしアレだったらこれから奥さんも乗せて滋賀の近江今津に夜桜でも見に行きますか?夜はまた一味違って、綺麗ですよ。ちょっと電話してみたら?」




惜しむらくは、家人は家にいなかったということである。もし在宅していたら、この風流な申し出に一も二も無く乗っていただろう。


「それは残念ですね、機会が有れば是非お二人で行ってみて下さい。」


そんな言葉を残して、風流オヤジ(失礼!)は去っていった。(また出会えると良いな)そう思いながら、マンションの階段を登った。